ー低価格、しかし本格的な録音可能。
独断で選ぶお勧めマイク各種―
これまで4回にわたって、ピアノを録音する際に役に立つポイントをご説明してきました。ざっと振り返ってみますと、ピアノの構造と響きへの理解、ピアノ独特の音の性質を踏まえた失敗しない録音方法の基礎、自宅など小さい空間で上手くピアノの録音をする方法、そしてマイク選びポイントという流れで綴ってきましたが、いかがでしたでしょうか? 今回はこれを踏まえ、ぐっと実践的に、お勧めのマイクを独断で選びご紹介していこうと思います。前回、マイクを選ぶ時に価格という軸も大切な要因と述べました。そして、やはり高額なマイクは、質もよく高品位な録音ができます。というか、各メーカーはそれを目指して開発しているので当然と言えばそうなのですが。しかし、個人でピアノを手軽に、かつ、可能な限り良い音で録音したいという方にとっては、マイクに高額な投資をしてまで録音するのはハードルが高く、また、現実離れしているのではないかと思います。そこで、今回は、そんな方に参考にしていただくため、低価格だが本格的な録音が可能な、お勧めマイクをご紹介していきます。選ぶにあたっては、ステレオペアで1万円以下~3万円台というちょっとシビアな価格基準を設定し、筆者が使用した経験のあるものを中心に、実績のあるメーカーから選んでいます。マイクの知識がまったくない方、もしくは、どれを選べばいいか見当がつかないような方に、ご参考にしていただければ幸いです。
※製品の写真と一緒にレイアウトできれば見やすいのですが、このブログの造りが対応しておらず、リンクで製品情報を辿る形にしています。ご容赦ください。
1.小口径・マッチドペアはねらい目
1-1.Behringer C-2 4,380円~ (ペア2本)
1-2.RODE M5 12,800円~ (ペア2本)
1-3.RODE NT5 26,500円~ (ペア2本)
小口径・マッチドペアでは上記3つを低価格から順番に挙げてみました。マッチドペアというのは2本のマイクの特性のばらつきを揃えてペアにして販売しているもので、ステレオ録音を基本的に前提としています。もちろん、単体での使用も可能です。
1-1.Behringer C-2
何と言っても衝撃の価格が魅力。マイク本体だけでなく、マイクホルダー2個、ウィンド・スクリーン2個、ステレオバー、キャリングケースが付属してこの価格を実現しているのは驚きです。本体の造りですが、ボディは艶消し仕上げのメタル・ダイキャスト製、出力コネクターは金メッキ仕上げとなっており、決して安っぽい印象を受けません。アッテネーション・スイッチにより低域のカット (-10dB) 可能なので、使い勝手もよいです。音質はクリアで透明感があり、ピアノのみならずアコースティックギターや金物系の楽器でも綺麗に録音できます。本格的なコンデンサー・マイクの入門として超お勧めです。
1-2、3 RODE M5、RODE NT5
RODEというメーカーは、オーストラリアに拠点を置き、新興のメーカーの部類に入る会社です。過去10年に渡って人気マイクを輩出しており、リーズナブルな価格ながら高品位マイクをラインナップしており、スタジオユースも豊富です。製造と品質管理も自社で行っているので信頼性も高く安心して使えると思います。RODE M5もRODE NT5低ノイズ、広い周波数特性を売りにしており、ピアノはもちろんの事、アコースティック楽器を収録するのに適しています。マイクホルダー2個、ウィンド・スクリーン2個、専用ハードケースが付属。別売のアクセサリーも充実しており、用途に応じた拡張性が魅力です。NT5は、別売りの無指向性・交換用カプセル(NT45-O: 7,580円~)を使えば、無指向性での使用も可能ですので、アンビエンス用としての使い方もできます。
2. 測定用マイクもピアノ録音には選択可能
次に取り上げるのは測定用として販売されているマイクです。測定用マイクは音響データの計測用として、オーディオルームの音響や楽器の音響測定、スピーカー測定など様々な音響データを測定する目的に開発されているマイクです。測定用マイクは、精密で正確なデータ取得を目的としていますので、広帯域に渡って周波数特性がフラット、位相特性が揃っている、過渡特性がよい(感度が高く鋭敏に反応)といった条件が求められます。つまり、音という空気の振動を正確にセンシングすることを目的としたマイクということになります。測定用マイクは正確性を重んじるため、良く言えばその場の音を余すところなく収録するマイクと言えますが、悪く言えば無味乾燥で味気ないといった感想を持つ方もいらっしゃるかも知れません。真空管マイクの持つ独特の味わいや、よく言われるガッツのある音とか、勢いや張り出しのある音といった言葉で表現される録音は期待できません。マイクが持つ癖やカラーを排除する思想で設計されていますので、積極的にマイクの特徴を活用して録音しようとすることを好む方は注意が必要です。しかしながら、ありのままの音を自然に切り取りたいという方には有効な選択肢となりますし、ピアノのような広帯域でダイナミックレンジが広い楽器には適しているマイクだと思います。一点、測定用マイクは無指向性ですのでマイキングには注意が必要です(前回の「上手にできるピアノの録音④ マイクはどれを選べばいいのか?」参照のこと)。
2-1.Behringer ECM8000 5,380円~ (一本)
2-2.BEYER MM1 17,500円~ (一本)
2-3.AUDIX TM1 19,800円~ (一本)
2-1.Behringer ECM8000
先のC-2と同様に衝撃価格。ペアで購入しても1万円超となり、このクオリティでこの価格は驚きです。ウィンド・スクリーンとマイクホルダーが付属しています。Behringer社はご存じの方も多いと思いますが、アウトボードのプロセッサーやオーディオ・インターフェイス、ミキサーなどを出している会社で、このECM8000も同社のスピーカー補正機器と組み合わせて使うことを想定しているようです。Hi-Fiオーディオの世界でもリスニングルームの測定や補正の際に用いられることが多く、DEQX社のプロセッサーはEarthworksの次の選択肢としてECM8000を推奨しています。
2-2.BEYER MM1
BEYER社は、数多くのマイクロフォン、ヘッドフォンなど出しているメーカーで、ダイナミック・マイクロフォンが特に有名です。このMM1もBehringerと同様、オーディオルームの音響補正や、コンサート会場のPA補正などに使われることが多いようです。前述した通り、測定用マイクは総じてフラットな特性にメリットがありますので、ピアノ全体の響きを捉えたいという場合に活用できると思います。マイクホルダーと専用のソフトケースが付属しており持ち運びに便利です。
2-3.AUDIX TM1
AUDIX社は、米国のマクロフォン専門の会社で、プロの方にも愛用者が多いメーカーです。一時期、スピーカーも製造していた記憶があるのですが、今は止めてしまったようです。1984頃に設立された会社なので、伝統的なメーカーと比較して新興の会社と言えると思います。ミュージシャンの意見を積極的に取り上げた製品開発でヒット製品を生み出し、マイクロフォン専門メーカーとしての地位を確立しました。測定用のAUDIX TM1はマイクロフォン専門会社ならではの安心感が魅力です。また、周波数特性は20Hz-25kHz (±2dB)
となっており、ここで取り上げた3つの中で、高域周波数は一番伸びています。
3.その他 ステレオマイクロフォン
iPhone / iPad 用マイク
ステレオマイクは何と言ってもマイクセッティングが楽なのと、マイクの特性的なばらつきや組み合わせに悩むことがない所に大きなアドバンテージがあります。特に初心者の方には、良い響きがする場所に向けてマイクを向けるだけという分かりやすさと手軽さが魅力だと思います。ハンディレコーダー付属のコンデンサー・マイクも高品位なものが多いのですが、ここでは、ステレオマイク単体で製品化されているものを挙げてみます。
3-1.RODE NT4 35,800円~
3-2.RODE iXY 14,800円~
ステレオマイクは、上記以外で、AUDIO TECHNICAなど良い製品があるのですが、今回設定した上限3万円台というところで、ご紹介できず、RODE社の製品に落ち着きました。
NT4は128dBのダイナミックレンジ、低ノイズ、高感度というスペックで、この価格帯のステレオマイクとしては驚くほど優秀な製品です。何といってもマッチングのとれた2つのマイクで手軽にセッティングできるのが魅力です。マイクセッティングはXY方式で、オープンで自然に収録できるのが特徴です。高域のレスポンスも良い感じなので、ピアノの録音にも適したマイクです。ポータブルレコーダーの外部マイクとしても活用できると思います。
iPhone、iPadに取り付けて使用するマイクは汎用のものが数多く出ていますが、iXYは本格的な録音に対応した製品です。マイクの品質もさることながら、iOSアプリの「RODE Rec」を使えば、24bit/96kHzの録音が可能です。個人的には、iPhone、iPadを活用した録音は今後大きな可能性があるように感じており、音楽を高品位で録音できるマイクがもっと出てくることを期待したいところです。
4.より本格的な録音を目指す方に
1万円以下~3万円台 というちょっと厳しい価格基準で製品をご紹介してきましたが、より本格的なマイクについて知りたいという方向けに、とても参考になるサイトがありますのでご紹介します。
Rock On Companyさんのページで、プロフェッショナル・ユースの代表的なマイクで録音したピアノの音を聞き比べできます。マイクの違いによる微妙な音の違いを体感してみてください。
Rock On 「録りたい素材に最適なあなたのマイク選びをお手伝い」
5.最後に
計5回に渡ってピアノを録音するポイントについて綴ってきましたが、今回で一旦、終了としたいと思います。ピアノの録音は、その難しさから、過去、様々な手法が開発されてきました。しかしながら、代表的な方法はあるものの、今現在に至っても、これだという方法は確立されていません。それゆえ、挑戦しがいもあり、楽しみもある世界だと思います。皆さんも、創造性を発揮して楽しみながらピアノを録音してみてはいかがでしょうか。