STUDIO 407ではコンクール審査用撮影のご依頼も頂きます。2023年度には、ピアノとヴァイオリン、それぞれで、有名コンクールでの優勝の知らせを頂き、動画審査に関わった者として、とても嬉しい年でした。
これまで、国際コンペティション、国内有名コンクール、オーディション、留学のための審査ビデオなどを撮影・レコーディングさせていただいております。嬉しいことに本選進出に進まれた方や上位入賞された方・団体も複数いらっしゃり、そんな時はご本人のような気持ちになって応援しています。これまでのコンクール音源審査の収録経験から、コンクール審査用撮影のポイントを整理してお伝えします。
【応募要項・規定に沿った動画撮影】
コンクール用動画撮影は通常の収録とは異なる部分があり、大切と思われる事がいくつかあります。まず、該当するコンクール、オーディションがアナウンスしている規定を注意深く理解することが必要です。録画審査の規定は意外とあっさり記述されていることが多いですが、録画方法やアングル、録画時期、提出フォーマットなどが簡潔に書かれています。この規定から外れるものは審査対象の条件を満たさないことになりますので、どれも重要です。とくに昨今、コンクール用審査ビデオの提出方法はDVDディスクからネットを経由してのアップロードに変わってきており、動画フォーマットやデータ量の上限について書かれていることもありますので注意が必要です。言うまでもないことですが、録音・撮影した後の編集は絶対できません。
【実力を充分発揮できるような環境作り】
これら規定に準拠した形で動画撮影を行いますが、エントリーする方の演奏をしっかり審査していただくよう収録内容にも気を配ります。クリアな音であること、演奏している様子がはっきり判る画質であることは言うまでもないですが、やはりその方の音楽的なポテンシャルと将来性がしっかり伝わるようなピアノレコーディングに心掛けています。編集不可なため、納得のいくまで何回も演奏することになり、長時間の撮影になることが多いですが、そんな場合でも精神的にリラックスして録音と撮影が進むよう、その場の雰囲気創りも大切です。恐ろしいことに、焦りや散漫な心は、音と映像に素直に出てしまいますので、鋭い審査員の目にはすぐに見抜かれてしまうものと想像します。その人の普段の音楽性が十分発揮できるような環境づくりに一番気を使います。
【クラシックピアノに通じた専門的なピアノレコーディング】
ピアノ コンクール用動画撮影のテクニカルな面ですが、音声に関してはSTUDIO 407のレコーディング・クオリティで録音し、恣意的な後処理は一切行いません。審査用には音のレベルが大きい方が有利だという誤った噂があるようですが、耳の鋭い審査員に通じようもないので行わないのが賢明です。
音のレベルを上げる処理とは、コンプレッサー、リミッターを用いて、全体の音圧を上げる処理のことですが、このプロセスは音の立ち上がりを圧縮してつぶし、ダイナミックレンジを抑え、聴感上の音量を上げる処理のことです。一般にポップスの録音では多用される処理ですが、ピアニッシモからフォルテッシモまで表現の幅を求められるクラシックでは使いません。とくにコンクール用の録音では演奏のニュアンスが削がれ音楽的に不利に働くと思います。応募要項に音量操作の機能を使わないことを注意点として挙げてあることが一般的です。とくにクラシックに通じたエンジニアでないと、こうした処理をされてしまう恐れがありますので注意が必要です。
【クラシックの王道、ホールレコーディング】
クラシックピアノのレコーディングは、ホールでのレコーディングをお勧めします。後処理でリバーブを加えるスタジオ録音では得られない、豊かで自然なホールの残響が、クラシックピアノに最適な音楽的な仕上がりにつながります。
STUDIO 407では数多くのホールレコーディングの経験を通じて、ホールレコーディングの専門知識とノウハウを蓄積しています。予算に応じたリーズナブルで響きのよいホールに関する知識も豊富ですので、ぜひ、ご相談ください。
ピアノコンクール ビデオ撮影の収録は、アングルや照明にも気を使います。しっかり演奏している様子がクリアに撮影できるようにしないといけません。昨今、コンクール用のネット経由のアップロード提出では、データ量が規定されている場合があり、クオリティを損なわないエンコード(画像圧縮)のノウハウも必要になってきます。同じデータ量であっても、画像処理の方法で画質クオリティは驚くほど違ってきます。
【おわりに】
その他、細かい動画撮影のノウハウがいろいろありますが、最後に、ある国際コンペティションの審査員が述べたことが印象に残っていますので記します。おおよそこんな内容を述べていらっしゃいました。
「もっと提出ビデオに気を配って欲しい。提出されたものが貧弱なクオリティだと、その人の音楽性もそうなのかと思ってしまう。そういう音を許す耳なのかと思ってしまう。」
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