6月19日に紀尾井ホールでタカギクラヴィアさんの記念コンサートが開催されました。
2月初旬より新型コロナ・ウィルスの感染が全世界的に広がり始め、国内では自粛緩和がされたとは言え、予断を許さない状況が続いています。この影響は私達の日常生活はいうまでもなく、あまねく世界的な経済活動に深刻な打撃を与えています。
人々が集まる場があるからこそ成立するコンサートやライブ活動への打撃は深刻で、とりわけ演奏家の方々のご心配は察するに余りあります。加えて、これまで閉鎖を余儀なくされていた、コンサート会場、劇場、ライブハウス、音楽サロンなど、音楽の場を提供している事業者さまも先行きが見えない中で厳しい状況に立たされているものと思います。
そうした中、東京都は、新型コロナウイルス対策本部会議で、感染拡大に警戒を呼びかける「東京アラート」を解除したうえで、12日午前0時に休業要請などの緩和の段階を「ステップ3」に進めることを決定。6月19日より休業要請の解除を行い、事実上、コンサートホールも公演再開が可能となりました。
この記念コンサートも中止が検討されていたそうですが、直前の東京都のアナウンスを受けて急遽開催が決定されました。6月19日はタカギクラヴィアさんにとって特別な日。奇しくも自粛解除される日が6月19日という不思議なタイミングでした。ホロヴィッツが愛したピアノ「CD75」の生まれた日が1912年6月19日、また、同じくホロヴィッツ2度目の来日の際、キャピトル東急(当時)で絶賛しながら弾いた「ローズウッド・スタインウェイ」をカーネギーホールのステージに再び上げ、最新のデジタル録音を行った日も6月19日でした。ギリギリのタイミングでこのコンサートが実現されたことを思うと、何か不思議な力が働いたのかも知れません。
プログラムは江口 玲さん、川口成彦さんが織りなすヴィンテージ・ピアノ3台の競演という贅沢な内容で、演目はオール・ショパン。第1部は川口成彦さんが1843年製のプレイエルで、第2部は江口玲さんが1887年製スタインウェイと1912年製のスタインウェイで演奏されました。お二人によるプレイエルでの連弾もラストプログラムされていて、まさに記念コンサートとして印象に残る一夜でした。
私はビデオ撮影のお手伝いで二階席から会場の様子を眺めていたのですが、待ちに待ったこの日への思いを込めたお二人の演奏は素晴らしく、その思いが会場全体を満たしていく様子が伝わってきました。ピアノの響きに共鳴するように会場にいらっしゃったお客様も同じ思いだったのではないかと思います。
このコンサートはライブ録音されており、CDとして発売予定だそうです。年代を経てピアノの響きがどのように変化していったかを聞くことができる貴重な音源になると思います。1843年製プレイエルはショパン33歳の頃の楽器ですから、当時の空気を吸っていたピアノの響きから、華やかなる巨匠時代を彩ったローズウッド、CD75へと至る響きの歴史が凝縮された内容になるものと思います。
名手お二人によるショパン、録音も名エンジニアである日本コロムビアの塩澤利安さんの手によるものですから、これはファン垂涎のディスクですね。
6月19日。自粛の闇から一筋の光がさしたような日でした。この光が音楽業界全体に広がっていくことを願うばかりです。
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