7月3日に平澤 仁さんのヴァイオリン・リサイタルの収録をしてきました。
60th Anniversary Memorial Recital と題されたこのリサイタルは、長年、ヴァイオリンと共に音楽の道を歩まれてきた平澤さんの演奏家としての節目を記念して開催されました。ピアニストは竹村浄子さん。お二人の寄り添うような響きが超満席のさくらホールを満たしました。
プログラムの一曲目はショスタコーヴィッチ ヴァイオリン・ソナタ Op.134から。この曲はオデッサ(現ウクライナ)生まれの名バイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフ(1908~1974)の60歳の誕生日を記念して書かれた曲として知られています。旧ソ連時代を通じ激動の時代を生き抜いた二人の友情を感じる曲。平澤さんが長年いつか演奏しようと思い続けていた曲だそうで、この記念リサイタルで初めて演奏することになったそうです。
続いて、バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番 ハ長調 BWV 1005。一転して、ひとりのヴァイオリニストを彫刻していくかのような時間が出現し、張り詰めた空気が、集中した演奏の息遣いとともに会場を満たしていくようでした。
休憩を挟み最後のプログラムは、フランク ヴァイオリン・ソナタ イ長調。フランス系のヴァイオリンソナタの最高傑作といわれ、同郷の後輩であるヴァイオリニストのウジェーヌ・イザイに結婚祝いとして作曲され、献呈されました。優しく穏やかな導入から、目まぐるしく様々な情感がドラマチックに展開し、透明で伸びやかな響きが心象風景を描いていきます。
アンコールでは平澤さんの初めてのCDに収録されている思い出の曲、ドヴォルザーク 4つのロマンティックな小品 作品75 第1曲が奏され終演しました。
「こんなに凄い拍手はこれまで聞いたことがない。。」と、驚いた様子で平澤さんがおっしゃっておりましたが、ほんとうに会場全体があたたかい大きな拍手で包まれ、私も収録しながらヘッドホンから拍手が溢れるかと思いました。
大きな拍手。演奏者にとっても、聴く側にとっても、かけがえのない大切なものとして大きな勇気と希望を与えてくれますね。心が通い合い、そのうねりが拍手となって会場に轟いていました。録音という仕事を通じて、こうした場面に立ち会うことが出来ることは幸せなことだと思います。二度と訪れることがない時間。これを記録として残すこともライブ収録の大切な役割だと再認識しました。
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